帰りは駅まで、きーさんが送ってくれることになった。
彼は赤い鈴を揺らしながら、玄関の扉を施錠する。左ポケットへ、鍵をしまった。それから手の甲を、俺の手の甲に一瞬、くっつけてきた。
目を合わせ、笑みを交わす。
外はすっかり、暗くなっている。わずかな電灯を頼りに、俺たちは並んで歩く。
「これからは、紅茶に入れる砂糖の量、できるだけ減らすよ」
「じゃあ俺、ブラックコーヒーやめて、きーさんが減らした分の砂糖入れますね」
風が一吹きした。反射的に、彼の右ポケットへ手を入れる。
なにかが指に当たった。平べったくて、先が尖っている。中で転がすと、チリン、と音がした。
「この合鍵、また貰ってくれる?」
遠慮がちな質問に、声を弾ませて頷くと、白い息が宙へ上った。
空には星が、またたいている。
「そうだ、きーさん。今度、二人で行きたいところがあるんです」
「ラブホテルは、無理だからね」
耳元で、低く囁かれた。思わず、笑ってしまいそうになる。
「もっと、いい場所ですよ」
「え、もっと?」
そのとき俺の携帯が、ポケットの中で震えた。電話だ。覚えのある名前が表示されている。
ふわっふわした茶髪の男性の姿が、脳裏に浮かぶ。
時刻は、二十時を過ぎていた。俺からの報告が、待ちきれなくなったのだろう。
すぐ終わらせるつもりで、きーさんに断りを入れ、電話に出た。
「もしもし?」
「どうなった?」
神妙な声が聞こえてきた。
彼のポケットに片手を突っ込んだまま、視線を横へやる。
「いろいろあって、復縁しました」
「まじか!」
「もしかして、宏介?」
俺は短く、きーさんに「はい」と答える。
液晶画面を通して、大げさなため息が、耳まで届いた。
「よかったあー」
「心配、おかけ、しまして?」
彼の反応に、引っかかりを覚えた。なんとなく、歯切れの悪い喋り方になってしまう。
すると。
「いや。元はといえば、俺のせいだし。男と付き合うのは勿体ないとか、口出しして悪かったな」
どうやら相良さんには、きーさんの悩みの根本が分かっていたみたいだ。
なんだか面白くなかった。付き合いの差を、見せつけられた気がした。