彼も、復縁を望んでいるんじゃないだろうか。一度、別れを口にしてしまったから、切り出しづらいだけで。
もしかしたら、という期待は、常に俺を裏切ってきた。でも今回だけは、正しい感じがする。
俺は彼を抱く腕に、力を込めてみた。
『やっぱり』から始まる一言が、聞きたい。
「好きだよ」
不意に耳元で、ささやかれた。
「はい」
沈黙が流れる。
言葉の続きを待つ間、俺は思った。
もし恋人に戻れるなら、今後は自分から、二人の妥協点をいろいろ探っていきたい。体の面でもきーさんに、もっと悦んでもらうのだ。
「本気で、好きだから」
「はい」
静かな、じれったい時間が過ぎていく。
我慢できなくなって、口を開いた。
「傍にいさせてください。友達よりずっと近い距離で、あなたの役に立ちたいです」
「……ねえ。君は、俺を甘やかすのが趣味なの?」
「まさか。自分勝手な、だけですよ。きーさんの笑顔を見たい。沢山のことを、共有したい。恋人として、心の隙間を埋めてもらいたい。ずっと、ずーっと。だから、あなたを大切にするんです」
「将来を、棒に振っても?」
「遠い未来より、明日きーさんと会えない方が問題なので」
彼は少し、困ったような顔をした。
けれど視線が合うなり、笑みに変わる。
あどけない、少年みたいな表情になった。
「陸君の、きーさんって呼ぶ声が好きだよ」
すぐに、台詞の意味を理解する。
『一日一回、恋人の好ましく感じるところを伝え合う』日常が、戻ってきたのだ。
「へへ」
「……ごめん。俺も相当、自分勝手だ」
「気持ちを受け入れてもらえて、嬉しいです」
脳裏に、きーさんの言葉が蘇ってきた。
『君の全部が好きなんだ』。
彼は、励ましてくれた。
『変かどうかなんて、他人に決められるものじゃないよ』。
『全てをきちんと理解する前に、自身を否定してしまうのは、早すぎなんじゃないかな?』。
言う通りだと思う。でも多分、誰も今の俺を認めてくれなかったら、いずれ自信を失っていただろう。
きーさんは、『特別な人』だ。いて当たり前なんかじゃない。俺を、俺でいさせてくれる、唯一無二の存在だ。
顔を近づけてみた。まばたきが、返ってくる。
構わずキスしようとしたところで、お腹の辺りに違和感を覚えた。視線を下へやる。
「あ」
そこには、シロがいた。俺ときーさんの間に挟まったまま、潰れかけている。
瞳孔の開ききった目と、目が合った。
幻聴だろうか。暑い、と呟く声を聞いた気がした。