なるべく淡々と、説明をする。
きーさんに悪影響を与えてしまった。自分と付き合っていたら、まともな恋愛ができなくなってしまう、と。
話の途中、きーさんは何度も内容を聞き返してきた。そうして最後には、ぐったりした表情も見せた。
「確かに俺は、森君を信用してるけど――」
「ですよね」
「浮気の心配がいらないから、好きなつもりになってるとか――」
「はい」
「随分、ひどい勘違いだな」
「そう、ですか?」
大きなため息を、つかれた。
「言っておくけど、森君の彼氏でいるのは、ちっとも楽じゃないから」
「え?」
「君は、いつだって突拍子もないんだ。安心感がほしいなら、虚しくてもシロを恋人扱いしてる方がよっぽどいい」
「え? そんなに?」
声が、裏返ってしまった。
「本当、森君には驚かされるよ。別れ話をしたのは、俺の想いが負担になったからだとばかり思ってた」
「えぇ!? 俺、告白されたのはショックでしたけど、あなたの支えになりたい気持ちは、変わってませんよ!」
「君はまた、そういうこと言う……」
きーさんは掠れた声を出すと、一瞬だけ黙った。
再び、唇を開く。
「俺は、横内君とキスしたあと、考えを変えたんだ。多感な時期の子に、もう二度と手を出すつもりはなかった。……なのに君は、いつも俺を試すようなことばかりして」
「いつも、ですか?」
「うん、いつも。……君が性的魅力を感じる人じゃなくて、本当によかったよ。でなきゃ付き合ってるとき、歯止めがきかなくなって確実に暴走してた。いい大人だっていうのに……。俺は君の傍にいて余裕のあったためし、ないから」
そのあと、きーさんは「恋なんて、面倒なばかりだ」と、呟いた。
逃げて楽になった人が、出すような声とは、思えなかった。
ひょっとして俺は、本当にひどい勘違いをしていたんじゃないだろうか。
壁に寄りかかるシロが、小さく頷いたような気がした。
「へへ」
そっか。なんだ、そっか。そうなんだ。
思わずぬいぐるみを持ち上げると、ため息が聞こえてきた。向かいから腕が、伸びてくる。
もしかしたら、と期待して、撫でやすいよう首を前へ曲げた。
けれど彼が触れたのは、黒猫の頭だった。
「森君ほど俺を大切に思ってくれる人は、今後、もう現れる気がしないよ」
「俺、褒められてます?」
「まあね」
「やった!」
はしゃぐと、シロごと抱きしめられた。素早い動きだった。
でも体を包み込む腕に、ほとんど力は入っていない。柔軟剤の甘い香りが、鼻先をくすぐった。
ゆっくり、きーさんの背中へ、手を回してみる。
「陸君」
上擦った声がした。