48話 特別な人②

「俺、前に言いましたよね? あなたを大切にしたい気持ちは、本物だって」

「う、うん」

「俺はいつでも、きーさんの味方なんです。だから考えてること、なんだって話してよかったのに。あなたを否定したり、しないのに……」

「けど、ついさっき馬鹿って――」

「愛情表現です」

「あ、うん」

 頷く姿を視界に入れたらまた、「なんで」と発していた。胸の奥が熱くなった。

 

「なんで……。なんで、なにも打ち明けてくれなかったんですか? 二人のことなのに。俺、そんなに頼りないですか?」

「まさか」

「ずっと傍に、いたいんでしょう? 家族みたいな存在なんでしょう? なのにどうして、離れようとするんですか? 俺の幸せ、決めつけないでください」

 腕を掴む手に、力が入る。

「でも別れようって言い出したのは、森君だよね?」

「それは……」

 正論だった。

 

「馬鹿なのは、君もだろ」

 責める彼の瞳が、ひどく心細そうに揺れた。

 あ。駄目だ。

 思ったときには、遅かった。

 

「まだ十七なんですよ、俺!」

 乱暴に、叫んでいた。悲鳴に近かったかもしれない。

「……う、ん」

 彼の、見開く瞳が腹立たしかった。

 返事までの間も、腹立たしかった。

 きーさんの全てが、腹立たしかった。

 

「どれだけ子供っぽい表情されたって、俺の方が、あなたより年下なんです」

「う、ん」

「だけど、頑張ったんだ! ガキなりに考えて、きーさんを大切にしてきた! やりたくないことだって、したのに。テスト勉強も。別れ話も。なのに――」

「森君?」

 

 胸の奥から感情が、溢れ出てきて止まらなかった。汚れた想いは、ぐるぐる、ぐるぐる、ひたすら渦を巻いていく。

「もっと努力、認めてくださいよ。よく、やったねって。君なら一人で、もう大丈夫だねって。馬鹿とか、嫌いになる方法なんて言葉、聞きたくないです!」

 

 俺はきーさんに詰め寄ると、勢いのまま押し倒していた。

 

「離れられなくなるじゃないですか。せっかく諦めたのに、また彼氏になりたい、なんて思ってしまいそうだ。足手まといになっても、それでも、なんて考えたら駄目なのに……。きーさんと話してると、まともじゃなくなってくる。どうして、恋人同士の関係にこだわってるんだろう。俺……壊れてるのかな? それとも――」

 もしかしたら。

 

 予感がした。

 

 俺は床に背中を預けるきーさんの唇へ、唇を押し当ててみた。くぐもった悲鳴があがる。

 

 

 全身を、違和感が駆け巡った。顔が熱くなったり、浮かれた気持ちにはならない。体のどこからも、恋の気配はやって来なかった。

 

 

 期待は、外れたのだ。