「俺、前に言いましたよね? あなたを大切にしたい気持ちは、本物だって」
「う、うん」
「俺はいつでも、きーさんの味方なんです。だから考えてること、なんだって話してよかったのに。あなたを否定したり、しないのに……」
「けど、ついさっき馬鹿って――」
「愛情表現です」
「あ、うん」
頷く姿を視界に入れたらまた、「なんで」と発していた。胸の奥が熱くなった。
「なんで……。なんで、なにも打ち明けてくれなかったんですか? 二人のことなのに。俺、そんなに頼りないですか?」
「まさか」
「ずっと傍に、いたいんでしょう? 家族みたいな存在なんでしょう? なのにどうして、離れようとするんですか? 俺の幸せ、決めつけないでください」
腕を掴む手に、力が入る。
「でも別れようって言い出したのは、森君だよね?」
「それは……」
正論だった。
「馬鹿なのは、君もだろ」
責める彼の瞳が、ひどく心細そうに揺れた。
あ。駄目だ。
思ったときには、遅かった。
「まだ十七なんですよ、俺!」
乱暴に、叫んでいた。悲鳴に近かったかもしれない。
「……う、ん」
彼の、見開く瞳が腹立たしかった。
返事までの間も、腹立たしかった。
きーさんの全てが、腹立たしかった。
「どれだけ子供っぽい表情されたって、俺の方が、あなたより年下なんです」
「う、ん」
「だけど、頑張ったんだ! ガキなりに考えて、きーさんを大切にしてきた! やりたくないことだって、したのに。テスト勉強も。別れ話も。なのに――」
「森君?」
胸の奥から感情が、溢れ出てきて止まらなかった。汚れた想いは、ぐるぐる、ぐるぐる、ひたすら渦を巻いていく。
「もっと努力、認めてくださいよ。よく、やったねって。君なら一人で、もう大丈夫だねって。馬鹿とか、嫌いになる方法なんて言葉、聞きたくないです!」
俺はきーさんに詰め寄ると、勢いのまま押し倒していた。
「離れられなくなるじゃないですか。せっかく諦めたのに、また彼氏になりたい、なんて思ってしまいそうだ。足手まといになっても、それでも、なんて考えたら駄目なのに……。きーさんと話してると、まともじゃなくなってくる。どうして、恋人同士の関係に拘ってるんだろう。俺……壊れてるのかな? それとも――」
もしかしたら。
予感がした。
俺は床に背中を預けるきーさんの唇へ、唇を押し当ててみた。くぐもった悲鳴があがる。
全身を、違和感が駆け巡った。顔が熱くなったり、浮かれた気持ちにはならない。体のどこからも、恋の気配はやって来なかった。
期待は、外れたのだ。