45話 再会⑤

「森君を諦めたのは、俺が男だからだ」

「なんで……」

 話す途中、相良さんの言葉を思い出した。

 

 『ゲイじゃないのに、男と付き合うとか……勿体なくねえ?』

 『わざわざ、面倒な生き方を選ぶようなもんだろ?』

 

「なんで」

 また同じ台詞が、口から漏れた。けれど二つの意味合いは、全く違う。

 

「ずっと、宏介の言葉が引っかかってた。付き合うなら、異性の方が絶対にいい。結婚できるし、子供を作ることも視野に入れられる。わざわざ選択肢を狭めるなんて、森君のためにならないだろ?」

「なんで――」

「君のテスト期間中、気持ちを整理していたんだ。このまま自然消滅に持ち込もうと、考えたりもした。けど結局、覚悟を決められなくて……。森君から別れを切り出されたときは、肩の荷が下りた気分だったよ」

「それで……」

 それで、ホッとした顔をしていたんですね。

 うまく声が出なかった。息を吸い込むと喉の奥は、ただ引きつる。

 

「だから森君とはもう、仲よくできない。女の子と、付き合ってほしい」

「友達にも、なれませんか?」

「そんなの、恋人でいる以上にもどかしいよ」

 

 彼は立ち上がると、キッチンへ引っ込んだ。ヤカンを手に、戻ってくる。マグカップに湯を注ぎ、また姿を消した。

 今度は手ぶらで現れ、席に着く。ティーバッグを、湯の中で揺らし始めた。

 気のせいか、目の端が少し赤い。

 

「俺はあなたの傍にいられたら、結婚とか、どうだっていいんだけどな」

 ぼやくと、きーさんは弾かれたように頭を上げた。

「も、森君!」

「はい?」

「プロポーズは、女の子に!」

「え? プロポーズ?」

 首を傾げると、ほてった頬がそっぽを向いた。

 シロへ視線をやってみる。相変わらずの、無表情だ。

「変な、きーさん」

「桐本さん、だから!」

「はい、きーさん」

「本当に、まったく君は」

「へへ」

「褒めてないし!」

 

 きーさんが俺を避ける、本当の理由をちゃんと聞けた。

 大きな一歩だ。今ならなんだって、うまくいく気がする。

 

 

 俺には、まだまだ、やるべきことがあった。