きーさんは、本当に面倒な人だ。
話に割り込まずには、いられなくなる。
「なんで、わざわざ嫌われるような振る舞い、するんですか?」
彼の、手の動きが止まった。五本分の砂糖は、カップの中で溶けていく。
「俺も、横内への未練を吹っ切りたくて、あなたを恋人にしました。おあいこ、じゃないでしょうか」
きーさんは、目を泳がせ始めた。憎まれるための言葉を、探しているみたいだ。
口を開くまで待つ気には、なれなかった。
「俺、きーさんの彼氏になって、本当によかったです。傍で沢山、学ばせてもらいました。恋愛以上に、貴重な体験ができた気がするし、なにより凄く楽しかったです。もう一生独り身でもいいかなって、思えるくらい。だから、きーさんの恋人に戻りたいなんて、図々しいことは言いません。ただ、前みたいに仲よくしてもらえませんか?」
考えておいた長文をつっかえず、声に出す。結構、うまく話せているはずだ。
けれど彼の表情は、徐々に険しくなっていった。
「……独り身なんて、俺が森君を諦めた意味なくなるだろ」
不意に、きーさんは呟いた。
「え?」
「あ」
視線が合う。
彼はスプーンを握りしめると、荒っぽい動作で紅茶をかき混ぜ始めた。
コタツの上に、こぼれだす。
「あーあーあーあー」
俺は大げさな声を出して、立ち上がった。キッチンから布巾を取ってくる。
「勿体ないこと、しましたね」
拭きながら、何気なく口にしてみた。
「森君が変な話するから」
「俺のせいですか?」
「ごめん、原因は自分だ」
懐かしい、やり取りだった。
「きーさんは、変わらないですね」
「森君も」
思わず二人で、笑ってしまった。
このままずっと和んでいられたら、どんなにいいだろう。
「で? 諦めた意味が、なんでしたっけ?」
話題を戻すと、きーさんはマグカップを口に運んだ。一気に、飲み干してしまう。
「あー、紅茶は美味いなー」
誤魔化そうとしているのは、明らかだ。
「俺が別れを切り出したから、終わりにするって決めたんですよね?」
「あー、バームクーヘンも美味しいなー」
彼は芝居がかった調子で言うと、残しておいた俺のケーキをさらっていった。
「ずるい!」
「買って来たのは、俺」
「貰ったのは、俺!」
身を乗り出して、抗議した。あははと歯を見せ、笑うから、つられて俺の頬も緩む。
きーさんは急に顔を赤くすると、マグカップの取っ手を掴んだ。
「中身、空ですよ」
「知ってる」
言い捨てるなり、今度はバームクーヘンにフォークを刺した。
じっと見つめていると、半分、俺の皿へ返してくれる。
遠慮なく、それを口に放り込んだ。
「で? 諦めた理由は、なんですか?」
「言う必要ないだろ」
また、きーさんの態度が冷たくなった。
シロは視線で、背中を押してくれる。
「聞く権利はあります」
なんとか断言して、俺は大きく息を吸い込んだ。
「諦めるのは、まともにスキンシップ、取れないからですか? 両想いに、なれないからですか? それとも……俺の性格が問題とか?」
「まさか!」
部屋中に、鋭い声が響いた。
「君はすぐ人を振り回すし、恋愛に疎い分、もどかしくなったりはするよ。けど、そういうところも含めて好きだった……」
まただ。彼の臆病な性格が、顔を出した。思い込みの恋で、心を満たそうとしている。
きーさんの表情は、苦しそうだった。