44話 再会④

 きーさんは、本当に面倒な人だ。

 話に割り込まずには、いられなくなる。

「なんで、わざわざ嫌われるような振る舞い、するんですか?」

 彼の、手の動きが止まった。五本分の砂糖は、カップの中で溶けていく。

「俺も、横内への未練を吹っ切りたくて、あなたを恋人にしました。おあいこ、じゃないでしょうか」

 

 きーさんは、目を泳がせ始めた。憎まれるための言葉を、探しているみたいだ。

 口を開くまで待つ気には、なれなかった。

 

「俺、きーさんの彼氏になって、本当によかったです。傍で沢山、学ばせてもらいました。恋愛以上に、貴重な体験ができた気がするし、なにより凄く楽しかったです。もう一生独り身でもいいかなって、思えるくらい。だから、きーさんの恋人に戻りたいなんて、図々しいことは言いません。ただ、前みたいに仲よくしてもらえませんか?」

 

 考えておいた長文をつっかえず、声に出す。結構、うまく話せているはずだ。

 けれど彼の表情は、徐々に険しくなっていった。

 

「……独り身なんて、俺が森君をあきらめた意味なくなるだろ」

 不意に、きーさんは呟いた。

「え?」

「あ」

 視線が合う。

 彼はスプーンを握りしめると、荒っぽい動作で紅茶をかき混ぜ始めた。

 コタツの上に、こぼれだす。

「あーあーあーあー」

 俺は大げさな声を出して、立ち上がった。キッチンから布巾を取ってくる。

 

「勿体ないこと、しましたね」

 拭きながら、何気なく口にしてみた。

「森君が変な話するから」

「俺のせいですか?」

「ごめん、原因は自分だ」

 懐かしい、やり取りだった。

「きーさんは、変わらないですね」

「森君も」

 思わず二人で、笑ってしまった。

 このままずっと和んでいられたら、どんなにいいだろう。

 

「で? 諦めた意味が、なんでしたっけ?」

 話題を戻すと、きーさんはマグカップを口に運んだ。一気に、飲み干してしまう。

「あー、紅茶は美味いなー」

 誤魔化そうとしているのは、明らかだ。

「俺が別れを切り出したから、終わりにするって決めたんですよね?」

「あー、バームクーヘンも美味しいなー」

 彼は芝居がかった調子で言うと、残しておいた俺のケーキをさらっていった。

「ずるい!」

「買って来たのは、俺」

もらったのは、俺!」

 身を乗り出して、抗議した。あははと歯を見せ、笑うから、つられて俺の頬も緩む。

 きーさんは急に顔を赤くすると、マグカップの取っ手を掴んだ。

「中身、空ですよ」

「知ってる」

 言い捨てるなり、今度はバームクーヘンにフォークを刺した。

 じっと見つめていると、半分、俺の皿へ返してくれる。

 遠慮なく、それを口に放り込んだ。

「で? 諦めた理由は、なんですか?」

「言う必要ないだろ」

 また、きーさんの態度が冷たくなった。

 シロは視線で、背中を押してくれる。

 

「聞く権利はあります」

 なんとか断言して、俺は大きく息を吸い込んだ。

「諦めるのは、まともにスキンシップ、取れないからですか? 両想いに、なれないからですか? それとも……俺の性格が問題とか?」

「まさか!」

 部屋中に、鋭い声が響いた。

「君はすぐ人を振り回すし、恋愛に疎い分、もどかしくなったりはするよ。けど、そういうところも含めて好きだった……」

 

 まただ。彼の臆病な性格が、顔を出した。思い込みの恋で、心を満たそうとしている。

 

 きーさんの表情は、苦しそうだった。