43話 再会③

「バームクーヘン、一緒に食べませんか?」

「コーヒー以外、受け取らないんじゃなかった?」

「でも、俺のために選んでくれたんですよね?」

 きーさんは黙って、コンロに火をつけた。

 紙袋は、流しの脇に置かれている。都合のいい解釈をしようと、決めた。

 

 中にある箱を、開ける。ドーナツ状のケーキが現れ、バターと卵の優しい香りが、鼻先をくすぐる。

 早速、包丁で切り分けた。皿を二枚、出してもらう。

 きーさんは、不機嫌な顔を決め込んでいる。構わずバームクーヘンを、コタツに運んだ。

 引き返すと、ヤカンが鳴きだす。茶色い粉末の入ったマグカップへ、湯を注いだ。香りはあまり立たない。

 そういえば開封して、もう二ヶ月以上は経つ。味も落ちてしまっただろうか。

 カップの中をかき混ぜないまま、しばらく眺めていた。色合いが段々と、変わっていく。熱に溶けた粉は、波紋を描き始めた。

 きーさんは隣で、紅茶のティーバッグを湯に浸している。

 それぞれ飲み物を手に、席へ着いた。

 

「いただきます」

 バームクーヘンへ、フォークを突き刺してみる。

 口に入れると想像していたより、ずっと、ふんわりした食感だ。

「きーさん、これ美味すぎです!」

 思わず叫んでしまう。

 手が止まらなくなった。できればゆっくり味わいたいのに、体は言うことを聞いてくれない。自分好みの上品な甘さで、夢中になって食べていた。

「よければ、俺の分もあげる」

 きーさんは、バームクーヘンを別の皿へ移しながら、苦笑気味に呟く。

「森君の作ってくれたチョコの方が、美味しかったよ」

 

 突然、我に返った。

 なんか俺、家に来た目的を見失いかけてる。

 

 フォークを、皿に置いた。咳払いしてみる。

 コーヒーを、すすった。

 体が温まる。だけど苦くって、ちょっと不味い。

 

「あの、きーさん」

「桐本さん、ね」

 彼はまるで、俺の続けようとしている言葉が、分かっているみたいだ。厳しい声で、牽制けんせいしてきた。

「きーさん」

 俺はあえてもう一度、あだ名を口にする。

 彼の唇が、わずかに歪んだ。

「また、仲よくさせてもらえませんか?」

「どうして? 横内君の知り合いだから?」

 表情が硬くなる。空気も、重くなった。

 

 無意識に、視線を動かしていた。シロはただ、じっと虚空を眺めている。

 俺は大きく、息を吸い込んだ。正面へ向き直る。

「きーさんだからです」

 言い切ると、目を丸くされた。でもすぐに、うつむかれてしまう。

「……あのさ。どうして俺が、森君と付き合ったか分かる?」

「さあ」

「君が高校生だからだよ」

 きーさんは、スティックシュガーを掴んだ。袋を破くと、紅茶に流し入れていく。

「俺は君を、横内君の代わりにしようとしていたんだ」

 一本、二本、三本。砂糖の勢いは止まらない。だけど指先は、震えていた。