42話 再会②

「どうぞ」

「へへ。お邪魔します」

 

 急ぎ足で、玄関に入った。下駄箱の上から、猫のぬいぐるみが出迎えてくれる。

 耳と耳の間を撫でてみた。どことなく、嬉しそうな顔をしている気がする。

 振り返ると、きーさんが俺を見つめていた。目尻を下げ、穏やかな雰囲気を漂わせている。なんだか懐かしい。

 

「きーさん、ちょっと痩せました?」

「さあ、どうだろう」

 思いきり、背中を向けられた。彼は紙袋を持ったまま、キッチンへ去っていく。

 

 ――やっぱり、俺に家まで来られて、迷惑なんだろうな。

 

 一瞬、心が折れそうになる。

 首を振って、小脇にシロを抱えた。

 ぬいぐるみだって、いい。味方がほしかった。

 

 黒猫はリビングの壁へ、寄りかからせる。

 相変わらず、家の中は殺風景だ。

 断りを入れて洗面所まで行き、手を洗う。キッチンへ顔を出した。

 彼は、ヤカンに水を張っている。以前も身につけていたグレーのニットが気のせいか、だぶついて見えた。

 ふむ。

 

 なんとなく、両腕を伸ばしてみる。きーさんの腰回りに、手を当てた。

 ぎゃっ、と変な悲鳴があがる。

「やっぱり、痩せましたね。ちゃんとご飯、食べてますか?」

「森君、離れて! すぐ、離れて!」

「いつまでも若いつもりじゃ、駄目ですよ」

「分かったから、食べるから!」

「本当ですか?」

「本当、本当!」

「なら、いいですけど」

 俺はくびれの辺りをもう一撫でして、彼を解放した。

 

「……君は、本当にマイペースだな」

「褒めてます?」

「全然」

 否定されても、不思議と嫌な気分にはならなかった。

 彼の耳が、真っ赤だからだろうか。それとも手で覆う瞬間に見えた口元が、しまりのないものだったからだろうか。

 気持ちに少し、余裕が出てきた。