41話 再会①

 翌日。俺は片付けたばかりの絵をまた、引っ張り出してみた。

 額縁がくぶちをこれまでと真逆な、シンプルで落ち着いた色合いのものに交換する。そうして自室へ飾ったら、以前より周りに溶け込んだような感じがした。真っ赤な紅葉も生き生きと輝き、全く違った印象になる。

 父は腕を組んで、「秋が来たな」と大きく頷いた。

 

 

 

 俺は二週間を目途めどに、待ち続けた。

 もうすぐ、きーさんから声がかかるはずだ。

 

 相良さんとは携帯で、短い文のやり取りをするようになった。ときどき無神経な発言をされるけれど、暇つぶしの相手には丁度いい。

 趣味の料理も再開した。

 

 メッセージが届いたのは、喫茶店での出来事から、十日ほど経った頃だった。

 

『渡したいものが、あります。三月十四日の夕方、外で会えませんか?』

 

 あまりにも他人行儀な文章に、苦笑してしまった。きっと送信ボタンを押すまで、何時間も葛藤したのだろう。

 

 きーさんは、面倒な人だ。ホワイトデーに、お返しを『絶対』渡すなんて断言したから、約束を破るわけには、いかなくなってしまった。彼はそういう人だ。

 分かっていた。

 

 すぐ、返事をする。無理やり待ち合わせ場所を、きーさんの家に変更してもらう。

 

 

 当日は、朝から珍しく緊張していた。きっと彼に構ってもらえる、最後の機会だ。後悔しないよう、話す内容はあらかじめ考えておいた。

 俺は最後にどうしても、聞いておきたいことがある。

 

 

 彼の家へ辿り着いた。大きく、深呼吸をする。チャイムを鳴らすと内側から、鍵の外れる音がした。

 ゆっくりドアノブが下がって、扉は少しだけ開く。

「……久しぶり」

 顔を覗かせるなり、きーさんはうつむいた。

「お久しぶりです」

 俺はできるだけ、明るく返事をする。

「わざわざ、来てもらってごめんね。はい、これ」

 扉の隙間から、紙袋を差し出された。有名な洋菓子店のロゴが、目に入る。

「チョコのお礼だから」

 俺は受け取る代わりに、両手を後ろで組んだ。

「どうして、視線を合わせてくれないんですか?」

 沈黙が流れる。馴れ合うつもりは、ないみたいだ。

 なら、俺にも考えがある。

 

「ホワイトデーはコーヒー以外、受け取りませんよ」

「ごめん。袋の中身、バームクーヘンなんだ」

「じゃあ、きーさんの家にあるインスタント、飲ませてください」

「家へ上げるのは、ちょっと」

「お返しは、俺の喜ぶものにしてもらえる約束ですよ。それと以前、言ってくれたじゃないですか。『好きなときに好きなだけ、うちで飲んでいいからね』って」

 俺は簡単に引き下がるつもりなんて、なかった。

 

「……森君は本当に、物覚えがいいな」

「褒めていただき、光栄です」

 きーさんは目を伏せたまま、長いため息をつく。

 

 扉が大きく開いた。