要約すると、近頃きーさんの調子が悪いようだ。仕事中も上の空で、相良さんは致命的なミスをしないか、心配なのだという。
「二人が別れたのは、知ってる。けど、まだ少しでも桐本さんに気持ちが残ってるなら、一度会ってもらえないか?」
「気持ちって言われても俺、元々、恋愛感情あったわけでもないですし」
「あー……。そっか」
まただ。
相良さんは、哀れむような目になった。カミングアウトをしたときに、きーさんへ向けていたのと同じ。その視線を、今は泳がせている。
「大体、会いに行ったところで、俺はなにもできませんよ」
「あんな美味いシチューが出せるんだから、大丈夫だって」
「料理と一緒にされても……」
「桐本さんに食べさせたいから、手間かけて作ったんだろ?」
「……まあ、はい」
相良さんは、きっと分かっていない。世の中には努力したって、無駄に終わることはいくらでもある。
どれだけ会いに行っても、まともに顔を合わせてもらえる気がしなかった。迷惑がられるくらいなら、なにもしない方がマシだ。
「相良さんがご飯に誘って、沢山話を聞いてあげてください。きーさん、愚痴るの好きなんで、きっと喜びます」
「俺が誘ってもなあ」
「あなたしか、元気づけられる人はいないと思いますけど」
「お前、本気で言ってる?」
「勿論」
一口、コーラを飲んだ。ヘラっと笑う。向かいで頭を抱えられた。
胸が痛かった。きーさんが不調なのは、きっと俺のせいだ。でもなにも、できそうにない。
不意に、相良さんは顔を上げる。腕と腕の隙間から、真剣な眼差しを向けてくる。
「俺さあ、桐本さんと森君ってすげー、お似合いな気がしてた」
「そう、ですか?」
「だからお互い、少しでも思うところがあるなら、よりを戻してほしいんだよな」
「はあ」
ならどうして、ときどき哀れむような目をするのだろう。
俺には相良さんが、なにを考えているのか分からなかった。