下校途中、家の最寄り駅で相良さんを見かけた。
最悪だ。極力、顔を合わせたくない。
俺はうつむくと、早足で歩いた。けれどすぐ、叫び声に捕まってしまう。
「森君、頼む! 一生のお願い!」
彼はぶしつけな通行人の視線にもめげず、手のひらを頭上で重ねてみせた。
「桐本さんに、会ってくれ!」
「いい年した大人が、一生のお願いって……」
恐らく、仕事は休みなのだろう。相良さんは、随分とラフな恰好をしていた。ふわっふわした髪は、野球帽に押し込まれている。
「なあ、いいだろ? 俺を助けると思ってさあ」
「正直、相良さんを助けたくないんですけど」
もう大人の対応をしようとは、思わなかった。
それじゃあ、と言って立ち去りかけると――。
「コーヒー対決で負けただろ」
痛いところを、突かれた。
黙って、空を見上げてみる。日は、沈みかけていた。
「……詳細。手短に、お願いします」
「悪いな」
自然と、大きなため息が出た。
奢りだというので、喫茶店へ入ることにする。古風な雰囲気の店内は、クラシック音楽が流れていた。
相良さんは奥のソファー席を俺に譲ると、帽子を脱ぐ。
向かい合わせに座って、注文を済ませた。
「俺を、待ち伏せしてたんですか?」
「大斗抜きで、話したかったからさあ」
「だとしても――」
文句を言う途中、飲み物が届いた。店員はすぐに去っていく。
「コーヒーじゃなくて、よかったのか?」
相良さんが、したり顔を見せてきた。
俺は小さな泡の浮かんだコップを、引き寄せる。
「もう、懲り懲りです」
「美味いのに」
「俺には、苦いだけです」
コップへ口をつけた。コーラの甘みと刺激が、交互に押し寄せてくる。美味い、と素直に思えた。
「で? 俺をきーさんと会わせたがる理由は、なんですか?」
「その、お節介なのは承知の上なんだけど――」
彼の口調は、たどたどしい。でも話自体は難しくなかった。