家へ帰ると、リビングの絵が差し替えられていた。
額に飾られた、桜の近くへ寄ってみる。一面ピンク色だ。やけに眩しく感じる。
「前の方がよかったな……」
まばたきを繰り返していたら、ソファーに座る母は、のんびり言った。
「季節が変わったのに紅葉のままじゃ、つまらないでしょ?」
「そうかな?」
「そうだろ」
振り返ると、兄が苺を摘まんでいた。妹も大きく頷いて同調し、テレビを眺める。画面に大きく、『最終回』の文字が映し出された。
納得できなかった。
夜。食事を済ませると、しまわれていた絵を部屋の隅から引っ張り出した。時間を、秋で止めたまま、額に納まっている。
二階へ運ぶことにした。やけに大きくて、重い。手間取っていたら、通りかかった父が手伝ってくれた。
自分の部屋に、辿り着く。室内の壁は緑と青、どちらにもなりきれない半端な色だ。相性が悪いのか、絵を飾ってみると、あまり馴染まなかった。
「違和感ある」
ぼやくと父は「そうだな」と言い、頭をかいた。
絵はまるで、俺みたいだった。周りに合わせられず、居場所もない。
黙って、紅葉の景色を壁から外した。
父は言う。
「また秋になったら、下の部屋へ飾ればいいさ」
普段通りに戻った部屋は、気持ちを落ち着けてくれる。
俺でさえ『普通』に、安心感を覚えていた。こんな自分が、きーさんに避けられるのは、当然のことなのかもしれない。
彼はきちんと食事を、摂っているだろうか。
何故だろう。秋はもう、二度と来ないような気がした。