28話 キスの約束②

 横内は、俺の頭に手を載せたまま、体を硬直させた。もしこの状況をクラスメイトに見られたら、また付き合っていると誤解されるだろう。

 

 念のため辺りを見回してから、距離を詰めた。

 唇を寄せる。

 押しつけようとしたら、思いっきり膝を蹴飛ばされた。

 

「い、てぇー……」

「アホか!」

 うずくまっていると、横内は仁王立ちで見下ろしてきた。

「桐本さんと、しろよ」

「もう、した。けど横内と、試したくて」

「なんで、そうなる!」

「好奇心」

「はああ?」

 

 俺は思ったのだ。恋人にならなくても、横内とキスをすれば恋愛感情が芽生える可能性だってあるかも、と。

 

「俺は、自分が彼氏にされて嫌なことを、できる限りしたくない!」

「へえ」

 また、相良さんに邪魔をされた。

「お前だって、桐本さんが誰かとキスしてたら、嫌だろ?」

「うーん、特には」

 それに俺は付き合い始め、きーさんと『浮気はアリ』というルールを作っている。なにも問題がなかった。

「あー……、森の場合はそうなるのか」

 横内は腕を組んだまま、前屈みになる。付き合う意味について、また考えているのかもしれない。

 

「横内は、相手がきーさんでもキスを拒否するのか?」

「当たり前だろ!」

「何度もしたのに?」

「そういう問題じゃない」

「ふーん?」

 蹴られた足の痛みは、いつの間にか引いている。あぐらをかくようにして、床へ座った。

 

 一瞬の我慢で済む口づけを、すぐ諦める気にはなれなかった。きーさんでさえ、横内とできたのだ。

 二人の過去をヒントに、なにか方法があればと頭をひねる。

「以前、キスを迫ってきたのは、きーさんの方なんだよな?」

「まあ、うん」

「横内が、相良さんに振られたきーさんを慰めようとして、勘違いさせた……とか?」

「よく、知ってるな」

「二人の性格から、予想しただけ」

「……当たりだよ」

 呟くなり横内は、しゃがみ込んだ。膝に、額をつける。当時を思い出して、恥ずかしくなったのだろうか。耳のつけ根は赤かった。

「もし、横内が相良さんと別れたら、キスして慰めていいか?」

「そんな日は来るはずないから、どうぞ」

 ダメ元の提案は、あっさり受け入れられた。

「本当か!? 絶対だからな!」

 頷く横内の顔は、いつも通り無表情だった。期待で胸が、ドキドキしてくる。

 

 

 横内とキス。横内とキス。横内とキス。

 

 

 キスをすれば、恋へ発展するかもしれない。そうしたらもっと周りの人の考えに共感できて、正しく世間と繋がれる。

 きーさんだって、変な目で見られずに済むのだ。明るい未来が、頭の中で広がっていく。

 だから

「桐本さんに嫌われたって、知らねえぞ」

 という呆れた声が聞こえても、右から左へ抜けていった。