27話 キスの約束①

 始業式を終えた日の、昼休み。パンを片手に最上階の踊り場へ、足を運んだ。屋上は閉鎖されていて、わざわざこんなところまで来る人は、あまりいない。周りを気にせず休憩するには、最適な場所だった。

 階段へ足を投げ出していると、横内が現れる。隣に腰を下ろし、弁当を広げ始めた。

 切れ長な目の下には、クマができている。

 

「宿題、終わったか?」

「ギリギリ」

 胸を張ってみせるものの彼はすぐ、うな垂れてしまう。

「初日から授業とか、キツすぎ……」

「次、体育だっけ?」

「そう。マラソン」

「ファイトー」

「人ごとだと思って」

 横内は嘆くと、卵焼きを口に放り込んだ。

 彼の弁当は唐揚げをメインに、彩りよく野菜が詰まっている。ご飯には、しらすが混ぜてあった。

 なるほど、体によさそうだな。

「やらねえぞ」

 感心していると、急に両腕で弁当を隠された。笑いながら、俺は惣菜パンにかぶりつく。

 

 九日ぶりに会う横内は、なにも変わっていなかった。はっきりした物言いと、分かりやすい態度。仏頂面で、すぐ喧嘩腰になる。

 

 俺はまた、今日から彼に、驚かされたり笑わされたりするのだろう。そうして、もっと深い付き合いができたら、恋愛感情だって湧いてくるんじゃあ、とか期待させられたりも、するのだろう。

 

「ご馳走様」

 俺は二つ目のパンを平らげると、上半身を後ろへ倒した。制服越しでも、床がひんやりしているのが分かる。

 横内も弁当袋の紐を結んで、隣へ寝転がった。

「冷たっ!」

 叫んですぐに、身を起こす。背中はところどころ、白くなっていた。

「汚れてる」

 制服をはたいてやると彼は、「埃だ」と言って俺の前髪に触れた。

 小さな顔が近くにある。

 

 きっかけさえあれば、と思った。

 俺だって、恋をしたいのに。

 

 突然、閃いた。

 

 

「あのさ、横内」

「んー?」

「キスしてみないか?」

「……は?」