始業式を終えた日の、昼休み。パンを片手に最上階の踊り場へ、足を運んだ。屋上は閉鎖されていて、わざわざこんなところまで来る人は、あまりいない。周りを気にせず休憩するには、最適な場所だった。
階段へ足を投げ出していると、横内が現れる。隣に腰を下ろし、弁当を広げ始めた。
切れ長な目の下には、クマができている。
「宿題、終わったか?」
「ギリギリ」
胸を張ってみせるものの彼はすぐ、うな垂れてしまう。
「初日から授業とか、キツすぎ……」
「次、体育だっけ?」
「そう。マラソン」
「ファイトー」
「人ごとだと思って」
横内は嘆くと、卵焼きを口に放り込んだ。
彼の弁当は唐揚げをメインに、彩りよく野菜が詰まっている。ご飯には、しらすが混ぜてあった。
なるほど、体によさそうだな。
「やらねえぞ」
感心していると、急に両腕で弁当を隠された。笑いながら、俺は惣菜パンにかぶりつく。
九日ぶりに会う横内は、なにも変わっていなかった。はっきりした物言いと、分かりやすい態度。仏頂面で、すぐ喧嘩腰になる。
俺はまた、今日から彼に、驚かされたり笑わされたりするのだろう。そうして、もっと深い付き合いができたら、恋愛感情だって湧いてくるんじゃあ、とか期待させられたりも、するのだろう。
「ご馳走様」
俺は二つ目のパンを平らげると、上半身を後ろへ倒した。制服越しでも、床がひんやりしているのが分かる。
横内も弁当袋の紐を結んで、隣へ寝転がった。
「冷たっ!」
叫んですぐに、身を起こす。背中はところどころ、白くなっていた。
「汚れてる」
制服をはたいてやると彼は、「埃だ」と言って俺の前髪に触れた。
小さな顔が近くにある。
きっかけさえあれば、と思った。
俺だって、恋をしたいのに。
突然、閃いた。
「あのさ、横内」
「んー?」
「キスしてみないか?」
「……は?」