23話 勝負③

「相良さんは、きーさんと仲がよくて、いいなあ」

 素直な感想を口にすると、二人の視線を同時に浴びた。

「安心しろ。俺は大斗しか興味ない」

「え? あ、はい」

 首を傾げつつ頷くと、相良さんは無言で眉をひそめる。

「別に陸君は、嫉妬してるわけじゃないよ」

「あれ? 今、嫉妬するような場面でした?」

「ほら」

 苦笑しながら、きーさんは水を一口飲み

「俺の恋人は、優秀だからね」

 と、言った。

「へへ」

 自然と頬が緩む。はいはいご馳走様です、と呆れた声がして、相良さんは両手を合わせた。

 

 完食すると皆で、皿をシンクに戻す。

 洗い物は、相良さんが買って出た。きーさんは布巾で、コタツの上を拭いている。俺は背中を丸め、ぼんやりテレビを眺めていた。

 ときどき、シャッターを叩く雨の音がする。

「そういえば」

 相良さんはキッチンから戻ると、俺に話しかけてきた。

「明日、学校だろ? 宿題しなくて、いいのか?」

「休みの初日に、残らず終わらせました」

 視線を上げて答えると、すげーとか、しっかりしてると感心された。

「面倒ごとは、さっさと済ませる主義なんです」

「大斗なんか、五日前の夕方に始めて、まだひぃひぃ言ってるぞ」

「よく知ってますね」

「毎日、電話してるからな」

「どうりで宿題、終わらないわけですよ」

 つい、口調が冷たくなってしまった。

 だって、勘に障ったのだ。『大斗のことは、なんでも把握してます』、みたいな態度が。

 

 俺も、アイツについてなら詳しい。これまで、いろんな顔を見てきた。怒ったり落ち込んだり喜んだり、照れたり。

 なのに、どうして選ばれたのは、相良さんなんだろう。

 どれだけ努力しても手に入らないものを、彼は当たり前のように持っている。

 なんだか無性に腹が立った。

 未練を断ち切るとか、大人の対応なんてどうだっていい。相良さんを見返したい気持ちで、いっぱいになっていた。

 

「横内の世話係としては、無視できない案件ですね」

 突っかかっていくと、鼻で笑われた。

「いやいや。俺が、世話係だし」

「相良さんは、ただの彼氏なんじゃあ?」

「だとしても世話係より、彼氏は立場が上だろ」

「まさか。大体、俺の方が横内と付き合い、長いんですからね」

「期間より、気持ちじゃねえ?」

「どっちも、負けてませんが?」

 立ち上がる俺に、相良さんは挑発的な顔を向けてきた。

「なんだ? 勝負でもするか?」

 彼はコタツから腕を出すと、袖をまくってみせてくる。

「コーヒー対決、しましょう!」

「望むところだ!」

 

 部屋が、雨音に包まれていく。俺たちは、にらみ合ったまま動かない。

 きーさんの、遠慮がちな声がした。

 

「あのさ。コーヒー対決って、なにするの?」