「相良さんは、きーさんと仲がよくて、いいなあ」
素直な感想を口にすると、二人の視線を同時に浴びた。
「安心しろ。俺は大斗しか興味ない」
「え? あ、はい」
首を傾げつつ頷くと、相良さんは無言で眉をひそめる。
「別に陸君は、嫉妬してるわけじゃないよ」
「あれ? 今、嫉妬するような場面でした?」
「ほら」
苦笑しながら、きーさんは水を一口飲み
「俺の恋人は、優秀だからね」
と、言った。
「へへ」
自然と頬が緩む。はいはいご馳走様です、と呆れた声がして、相良さんは両手を合わせた。
完食すると皆で、皿をシンクに戻す。
洗い物は、相良さんが買って出た。きーさんは布巾で、コタツの上を拭いている。俺は背中を丸め、ぼんやりテレビを眺めていた。
ときどき、シャッターを叩く雨の音がする。
「そういえば」
相良さんはキッチンから戻ると、俺に話しかけてきた。
「明日、学校だろ? 宿題しなくて、いいのか?」
「休みの初日に、残らず終わらせました」
視線を上げて答えると、すげーとか、しっかりしてると感心された。
「面倒ごとは、さっさと済ませる主義なんです」
「大斗なんか、五日前の夕方に始めて、まだひぃひぃ言ってるぞ」
「よく知ってますね」
「毎日、電話してるからな」
「どうりで宿題、終わらないわけですよ」
つい、口調が冷たくなってしまった。
だって、勘に障ったのだ。『大斗のことは、なんでも把握してます』、みたいな態度が。
俺も、アイツについてなら詳しい。これまで、いろんな顔を見てきた。怒ったり落ち込んだり喜んだり、照れたり。
なのに、どうして選ばれたのは、相良さんなんだろう。
どれだけ努力しても手に入らないものを、彼は当たり前のように持っている。
なんだか無性に腹が立った。
未練を断ち切るとか、大人の対応なんてどうだっていい。相良さんを見返したい気持ちで、いっぱいになっていた。
「横内の世話係としては、無視できない案件ですね」
突っかかっていくと、鼻で笑われた。
「いやいや。俺が、世話係だし」
「相良さんは、ただの彼氏なんじゃあ?」
「だとしても世話係より、彼氏は立場が上だろ」
「まさか。大体、俺の方が横内と付き合い、長いんですからね」
「期間より、気持ちじゃねえ?」
「どっちも、負けてませんが?」
立ち上がる俺に、相良さんは挑発的な顔を向けてきた。
「なんだ? 勝負でもするか?」
彼はコタツから腕を出すと、袖をまくってみせてくる。
「コーヒー対決、しましょう!」
「望むところだ!」
部屋が、雨音に包まれていく。俺たちは、にらみ合ったまま動かない。
きーさんの、遠慮がちな声がした。
「あのさ。コーヒー対決って、なにするの?」