21話 勝負①

 冬休みの最終日は、朝から雨が降っていた。気温もほとんど、上がらない。きーさんの家は、まるで冷凍庫だ。エアコンを、つけさせてもらうことにする。

 

 玄関先に立つシロが、なんだか不憫に思えてきた。リビングの隅へ、置いてやる。

 殺風景な部屋でも、ぬいぐるみが一匹いるだけで和む。

 きーさんは、自分の家をどんなふうに感じてるのだろうか。

 以前、コーディネートしたいと申し出たとき、嫌がる様子は見せなかった。

 同棲は微妙みたいだったけれど。

 なにをすれば、きーさんはもっと笑ってくれるだろう。

 

 

 

 ジャガイモや人参、肉を黙々と一口サイズに切っていく。

 鍋へ油を引いた。小麦粉でまぶした鶏を、焼く。一度皿に取り出し、野菜を煮る。

 

 工程は、頭に入っている。母の得意料理だ。真似て作っているとホワイトシチューは鍋いっぱい、五人分くらいになってしまった。

 タッパーへ詰められない分は、夜のうちに食べきってしまおう。

 

 今日は珍しく、俺も一緒に食事をする予定になっていた。家族には、知人とファミレスへ行くと伝えてある。

 

 料理の腕を上げるため、俺は味見だけじゃなく、きちんと作ったものを口にしておきたかった。

 

 手を鍋で温めていると、外から鈴の音が聞こえてくる。炊飯器も鳴きだした。丁度ご飯が、炊き上がったみたいだ。

 鍵を差し込む気配がする。

 

「きーさん、おかえ……」

 途中で、声が出なくなった。

 家主の後ろにもう一人、誰かいる。膨らんだ髪には、見覚えがあった。

「お邪魔しまーす」

 一緒に家の中へ入ってきたのは、きーさんに負けず劣らず長身の、相良さんだった。派手な赤いニットと、カジュアルな黒のジャケットを、見事に着こなしている。

 

「露骨に嫌な顔、すんなよ」

 彼は両手をポケットに入れ、ケラケラと笑った。きーさんと俺の関係を、耳にしたのだろうか。珍しく敵意は感じない。

 俺は無言のまま、視線を落とす。お玉でシチューを、かき回し始めた。

「今度は無視か!」

「見なかったことに、しただけです」

 

 どろり、どろり。鍋の中と同じように、俺の気持ちも粘りだす。

 

「ごめん、陸君。急に宏介連れてきて」

「きーさんの家なんですから、気にしないでください」

「うん」

「え。桐本さん、もしかして尻に敷かれてる感じですか?」

 安心した表情の、すぐ傍から口を挟まれた。

「……宏介は、外につまみ出されたいのか?」

「もしかして、図星でした!?」

「違う」

「へー! なるほど、なるほど」

「だから、違うって」

「そうですか、そうですか」

「いや、だから――」

 

 軽快なやり取りは、放っておくとまだ続きそうだ。俺は上着を脱ぐよう勧め、二人をリビングへ追い払った。