冬休みの最終日は、朝から雨が降っていた。気温もほとんど、上がらない。きーさんの家は、まるで冷凍庫だ。エアコンを、つけさせてもらうことにする。
玄関先に立つシロが、なんだか不憫に思えてきた。リビングの隅へ、置いてやる。
殺風景な部屋でも、ぬいぐるみが一匹いるだけで和む。
きーさんは、自分の家をどんなふうに感じてるのだろうか。
以前、コーディネートしたいと申し出たとき、嫌がる様子は見せなかった。
同棲は微妙みたいだったけれど。
なにをすれば、きーさんはもっと笑ってくれるだろう。
ジャガイモや人参、肉を黙々と一口サイズに切っていく。
鍋へ油を引いた。小麦粉でまぶした鶏を、焼く。一度皿に取り出し、野菜を煮る。
工程は、頭に入っている。母の得意料理だ。真似て作っているとホワイトシチューは鍋いっぱい、五人分くらいになってしまった。
タッパーへ詰められない分は、夜のうちに食べきってしまおう。
今日は珍しく、俺も一緒に食事をする予定になっていた。家族には、知人とファミレスへ行くと伝えてある。
料理の腕を上げるため、俺は味見だけじゃなく、きちんと作ったものを口にしておきたかった。
手を鍋で温めていると、外から鈴の音が聞こえてくる。炊飯器も鳴きだした。丁度ご飯が、炊き上がったみたいだ。
鍵を差し込む気配がする。
「きーさん、おかえ……」
途中で、声が出なくなった。
家主の後ろにもう一人、誰かいる。膨らんだ髪には、見覚えがあった。
「お邪魔しまーす」
一緒に家の中へ入ってきたのは、きーさんに負けず劣らず長身の、相良さんだった。派手な赤いニットと、カジュアルな黒のジャケットを、見事に着こなしている。
「露骨に嫌な顔、すんなよ」
彼は両手をポケットに入れ、ケラケラと笑った。きーさんと俺の関係を、耳にしたのだろうか。珍しく敵意は感じない。
俺は無言のまま、視線を落とす。お玉でシチューを、かき回し始めた。
「今度は無視か!」
「見なかったことに、しただけです」
どろり、どろり。鍋の中と同じように、俺の気持ちも粘りだす。
「ごめん、陸君。急に宏介連れてきて」
「きーさんの家なんですから、気にしないでください」
「うん」
「え。桐本さん、もしかして尻に敷かれてる感じですか?」
安心した表情の、すぐ傍から口を挟まれた。
「……宏介は、外につまみ出されたいのか?」
「もしかして、図星でした!?」
「違う」
「へー! なるほど、なるほど」
「だから、違うって」
「そうですか、そうですか」
「いや、だから――」
軽快なやり取りは、放っておくとまだ続きそうだ。俺は上着を脱ぐよう勧め、二人をリビングへ追い払った。