9話 距離感

 コタツで温まりながら、沢山の話をした。

 例えば年末年始の過ごし方。俺の家族は皆、泊まりがけで親戚のところへ行っている。自分はお年玉を貰うより、横内と初詣に出かけるのを優先してしまった。

 

 同情した、きーさんが口を開く。

「俺たちと遭遇したせいで、お参りが台無しになっちゃったね」

「本当ですよ。相良さん、空気読んでほしい」

 吐き捨てるように言うと、笑い声が弾けた。

「陸君って結構、はっきり主張するなあ」

「多分、横内の影響です。考えなしに本音をぶつけてくるから、移ったのかも」

「あー、確かに彼はいつも、まっすぐだから」

 きーさんは、眩しそうに目を細めた。いつまでも、ブラックコーヒーにこだわる俺には到底できない表情だ。

 

 どうすれば、もっと余裕を持てるだろう。悔しい気持ちを消せるだろう。

 

 彼に聞いてみたくて、けれど口にしづらい疑問は増えていった。正月、帰省しない事情や。長続きさせる気もない恋人ゴッコに、付き合ってくれる理由。

 

 

 きーさんは彼氏ができると毎回、初めにルールを作るのだそうだ。

「例えば体の浮気はアリか、ナシか」

「大抵のカップルは、駄目なんですよね」

「俺はいつも、禁止しないでおく。そうすれば、されても裏切られた気にならなくて済むだろ?」

 彼は、少し面倒な人だ。本当は自分だけ見てほしかったと、顔に書いてある。

 正直、あまり共感できなかった。

 

「俺はするつもりないですけど、アリにしておきましょうか」

 そもそも何故、恋愛とセックスを一緒くたに、考える必要があるのだろう。

 俺はそれぞれで、性欲を処理したかった。もし自分で自分を慰めるのが難しいなら、同じ目的を持った人とするべきだ。

「心の浮気も、構わないですよ。どうせ嫉妬したくたって、できませんから」

「……なんていうか。陸君とは、気を張らずに付き合えそうだよ」

 

 

 

 日が沈む頃になって、駅まで送ると、きーさんは言ってくれた。

 玄関から出た瞬間、彼は俺の手の甲に、手の甲をくっつけてくる。顔を上げると、意味深な笑みを浮かべ、離れた。

 

 同性と付き合うなら、人目を気にする必要がある。

 性的な意味合いで、誰かと密着するのが苦手な自分にとっては、ありがたかった。けれど、きーさんには窮屈な世界なのかもしれない。

 本音は、どうなんだろう。

 

 気になりながらも結局、俺はまた口をつぐんでいた。