31話 告白②

 すぐ本人へ、尋ねてみた。

 何故、キスに至らないのか。

 露骨ろこつな態度で、はぐらかされる。三日ほど粘っても、答えはくれない。余計、気になる。

 方法を変えることにした。

 

 日曜の昼過ぎ、チョコをチラつかせてみた。妹に教わりながら、自分で作ったものだ。六日遅れだけれど、バレンタインという名目もつけた。

 

 きーさんは、満面の笑みを浮かべる。

「ホワイトデー、期待してて!」

「キスしようとしない理由を教えてもらえるなら、お返しなんかいいですよ」

 急に顔色が、変わった。

 

「陸君の喜ぶもの、プレゼントするからさ!」

 きーさんは慌てて表情を戻すと、チョコを掴む。

 でも、とぼけたフリに付き合えるほど、俺はお人好しじゃない。

「プレゼントよりも、理由を――」

「まさか手作りのお菓子を貰えるなんて、嬉しいなあ」

 ラッピングまで気合いの入ったチョコを、彼は離そうとしない。

 それは俺も、同じだった。

「白状しないなら、あげません」

「いいや。絶対に貰う」

「なら、教えてください」

「貰う」

「理由」

 引っ張り合っていると、包みが少し破けた。

 彼はようやく観念し、「だけど、絶対! ホワイトデーにお返しも渡すから!」と、負け惜しみじみたことを口にする。

 それから手に入れたチョコを冷蔵庫へ、しまいつつ

「キスして、陸君に嫌な思いさせたくなかったんだ」

 と、呟いた。

「なんで俺が、嫌な思いするんですか?」

 コンロの上で、ヤカンはぐずぐず音をたてている。

「だって、苦手でしょ?」

 思考が一瞬、止まった。

 きーさんは俺の目を、まっすぐ見つめてくる。

 否定しても、無駄だと悟った。

 

「……いつ、知ったんですか?」

「唇の感触が好きって、言ってくれただろ? その気遣いが、凄く嬉しかったよ」

「……俺はきーさんに沢山、気持ちをんでもらっていたんですね」

「そんなの、お互いさまだ」

「ごめんなさい。恋人なんだから、本当はもっと、きーさんを性的な意味で満足させなきゃ駄目なのに」

「誰だって、苦手な分野はあるよ」

 

 彼は下がり気味の目尻を、更に下げた。両腕を背中へ、そっと回してくる。決して、力をこめたりしない。周りから守るためだけにある、囲いみたいだった。

 俺はきーさんに、とても大切にしてもらっている。

 

 自然と彼の胸へ、顔をくっつけていた。

 鼓動が聞こえてくる。凄く、速い。

 

 横内の話を思い出した。

 きーさんは、俺に恋愛感情を抱いているのだろうか。

 

 だったら嫌だなと思った。

 恋には、終わりがある。

 心が冷めて、もし、この優しさも消えてしまったら――。

「俺を好きになったり、しないでくださいね」

 

 つい、口走っていた。