すぐ本人へ、尋ねてみた。
何故、キスに至らないのか。
露骨な態度で、はぐらかされる。三日ほど粘っても、答えはくれない。余計、気になる。
方法を変えることにした。
日曜の昼過ぎ、チョコをチラつかせてみた。妹に教わりながら、自分で作ったものだ。六日遅れだけれど、バレンタインという名目もつけた。
きーさんは、満面の笑みを浮かべる。
「ホワイトデー、期待してて!」
「キスしようとしない理由を教えてもらえるなら、お返しなんかいいですよ」
急に顔色が、変わった。
「陸君の喜ぶもの、プレゼントするからさ!」
きーさんは慌てて表情を戻すと、チョコを掴む。
でも、とぼけたフリに付き合えるほど、俺はお人好しじゃない。
「プレゼントよりも、理由を――」
「まさか手作りのお菓子を貰えるなんて、嬉しいなあ」
ラッピングまで気合いの入ったチョコを、彼は離そうとしない。
それは俺も、同じだった。
「白状しないなら、あげません」
「いいや。絶対に貰う」
「なら、教えてください」
「貰う」
「理由」
引っ張り合っていると、包みが少し破けた。
彼はようやく観念し、「だけど、絶対! ホワイトデーにお返しも渡すから!」と、負け惜しみじみたことを口にする。
それから手に入れたチョコを冷蔵庫へ、しまいつつ
「キスして、陸君に嫌な思いさせたくなかったんだ」
と、呟いた。
「なんで俺が、嫌な思いするんですか?」
コンロの上で、ヤカンはぐずぐず音をたてている。
「だって、苦手でしょ?」
思考が一瞬、止まった。
きーさんは俺の目を、まっすぐ見つめてくる。
否定しても、無駄だと悟った。
「……いつ、知ったんですか?」
「唇の感触が好きって、言ってくれただろ? その気遣いが、凄く嬉しかったよ」
「……俺はきーさんに沢山、気持ちを汲んでもらっていたんですね」
「そんなの、お互いさまだ」
「ごめんなさい。恋人なんだから、本当はもっと、きーさんを性的な意味で満足させなきゃ駄目なのに」
「誰だって、苦手な分野はあるよ」
彼は下がり気味の目尻を、更に下げた。両腕を背中へ、そっと回してくる。決して、力をこめたりしない。周りから守るためだけにある、囲いみたいだった。
俺はきーさんに、とても大切にしてもらっている。
自然と彼の胸へ、顔をくっつけていた。
鼓動が聞こえてくる。凄く、速い。
横内の話を思い出した。
きーさんは、俺に恋愛感情を抱いているのだろうか。
だったら嫌だなと思った。
恋には、終わりがある。
心が冷めて、もし、この優しさも消えてしまったら――。
「俺を好きになったり、しないでくださいね」
つい、口走っていた。